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最高裁判所第一小法廷 昭和54年(行ツ)71号 判決

津市阿漕町津與二四一六番地

上告人

太田英郎

同所同番地

上告人

太田志げ

右両名訴訟代理人弁護士

村田正人

中村亀雄

石坂俊雄

名古屋市中区三の丸三丁目三番二号

被上告人

名古屋国税局長 岡崎洋

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和五三年(行コ)第二七号差押処分取消等請求事件について、同裁判所が昭和五四年三月八日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人村田正人、同石坂俊雄、同中村亀雄の上告理由について

所論の点に関する原審の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨選択、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村治朗 藤崎萬里 本山亨)

(昭和五四年(行ツ)第七一号 上告人 太田英郎 外一名)

上告代理人村田正人、同石坂俊雄、同中村亀雄の上告理由

第一点 原判決には論理法則及び経験法則に違反して事実を認定し、かつ著しい釈明権の不行使、審理不尽、理由不備、理由齟ごの違法がある。

一 原判決が理由として同じであるとして引用している原審の理由によれば、「原告英郎は、昭和四六年五月三一日頃、永合寿と共に津税務署の柏木係官を訪れた際右係官から、原告英郎が真弓勇から本件土地を買い、月の友の会へ転売したため、原告英郎に譲渡所得税が課せられる旨の説明を受けたこと、そして、右係官が昭和四五年分の所得税の確定申告書に必要的記載事項を代筆して分離短期譲渡税額を八三万九六〇〇円とする確定申告書を作成したところ、原告英郎は前記説明を納得して右申告書に住所・氏名を記入して太田印を押印した事実」を認定し、「本件確定申告書には何ら瑕疵はなく原告英郎に対する租税債権は適法に確定存在している」と判断しているが、右判断は、確定申告書作成の経過を全く理解しない独断であつて著しく論理法則・経験法則に違反し、理由不備・理由齟ごの違法があるものというべきである。

二 真弓勇所有にかかる津市大字半田字四十九山一四六八番畑一八五平方メートル他三筆の土地の売買の当事者は、真弓勇と株式会社三重県月の友の会であつて、上告人ではなく、上告人は妻のいとこに当る真弓勇から本件土地の買手を探してくれと頼まれ、山下不動産に買手を教えてくれと電話をかけた二、三日後、税理士永合寿と「弘和実業」の名で不動産業をしている落合が来たので、二人を現地案内し、真弓に引き合わせ、その謝礼として落合から三四万円を受け取つただけである。

三 およそ短期譲渡課税を課すには、実質的な課税要件が備わっている場合でなければならない。売買の当事者でもなく、また仲介人でもない者に対し、短期譲渡課税を課すことは、税法における公平の原則、実質主義の原則から見て到底許されないものである。

四 津税務署資産税課署員柏木寿太郎は、津地方法務局より、土地登記済通知書及び法定調書を入手し、本件土地の売主真弓の売却代金及び買主(株)月の友の会の買入価格の二点について調査をはじめ、真弓及び(株)月の友の会からの事情聴取の後不動産業落合高雄(弘和実業)が仲介し、上告人が介在していることを知つたが、税務署に出頭した上告人に対し、説明を求めたところ上告人は上告人所有にかかる南阿漕田の土地の件についての説明を主にしており、本件土地の件については、売主と仲介人を引き渡したに過ぎない旨弁明し、税務に無知な上告人が柏木の前で南阿漕田の土地についての税金の申告をするものと思つて氏名、住所、生年月日欄以外はすべて白紙のままで申告書の用紙を出したものであり、決して四十九山の土地の売買の申告書として提出されたものではない。

まして四十九山の土地についての申告を上告人英郎が柏木に代筆依頼した証拠は全くない。

しかるに、柏木税務署員は上告人が仲介人でもなく、その旨弁明しているにもかかわらず、四十九山の土地を上告人英郎が売り買いしたものと独断して、前記白紙の申告書にその旨の記載をしたものであつて上告人の真意に基づく申告はなく、不存在というべきであり、仮りにそうでないとしてもこのように申告者の意思に基づいてなされてない以上、無効である。

五 原判決は、尽すべき審理を尽さず、これといつた理由を示すことなく冒頭の如き判断をしており、著しい釈明権の不行使、審理不尽、著しい経験則違反、理由不備、理由齟ごの違法があるので破棄されるべきである。

以上

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